推薦図書

 
「西郷南洲遺訓」 

 
山田済斎 編                岩波文庫




 「西郷南洲遺訓」が書かれたいきさつは、幕末に山形の庄内藩が幕府の命令によって薩摩藩邸を焼き討ちをしました。当然、新政府は庄内藩を攻撃の対象としましたが西郷隆盛が攻撃を中止させました。その事を知った庄内藩の人々は西郷に感謝すると同時に、彼の人間性に対して尊敬の念を抱きました。西郷が新政府の要職を辞任し鹿児島に帰った時、教えを請いに訪ねていき西郷から聞いた話をまとめたのが「西郷南洲遺訓」です。西郷隆盛の人物像は今更私が述べるまでもなく皆さんはよく知っていると思います。

 江戸城を無血開城させた明治新政府の立て役者。私欲が無く、人物的にもくスケールの大きい人。かすりの着物にへこ帯を締め、下駄を履いて犬を連れている姿。等々色々と思い浮かんでくると思います。

 最近やたらとスポーツ選手などが、インタビューで「頑張った自分を誉めてやりたい」とか「ご褒美をあげたい」などと言っているのを聞く度に、「なんとまあ恥ずかしくもなく人前でよく言えるものだ」と思います。

 西郷は自己愛に対して「己を愛するは善からぬことの第一也。修行の出来ぬも、事の成らぬも、過を改むることの出来ぬも、功に慢心の生ずるも、皆な自ら愛するが為なれば、決して己を愛せぬものなり。」と説いています。自己を棄てきったところに、初めて自由があり、正しい道を歩むことが出来るのだと。

 本著は「官の在り方」「人間としての在り方」「至誠とは」「自己愛とは」等人間として生きていく為の本筋を説いている本です。

 西郷が座右の書の一つとして愛読していた本に佐藤一斎著の「言志録」が有り、その中から百一条を妙録して西郷が編纂した「手妙言志録」も本書に収録されています。この本はわずか百八ページと薄い本ですがこの一冊を読めば「敬天愛人」をはじめとし、西郷の人生観、哲学を読みとることが出来ます。
                                瀬戸謙介