〜空手における呼吸法〜
瀬戸塾師範 瀬戸謙介 呼吸法には、大きく分けて内に蓄えられたエネルギーを外に出す「外気呼吸法」と、自然界の発する気を体内に吸い込み、エネルギーを蓄え、体内の気を巡らす「内気呼吸法」とがあります。一般的に、内気呼吸法は太極拳や気功などで用いている呼吸法で、外気呼吸法は武術などに用いられている呼吸法だと言われておりますが、武術を志す者は、外気、内気両方の呼吸が出来て一人前です。 |
内気呼吸法と外気呼吸法 |
内気呼吸法によって、体内に蓄えたエネルギーを、外気呼吸法により瞬時に爆発させ相手にぶつける、これが気合いです。気合いも一つの呼吸法であり、これらの基本となる呼吸法が腹式呼吸法なのです。腹式呼吸法の練習は、まず内気を蓄える方法から行います。ゆったりと立ち、背筋を伸ばし、ゆっくりと息を吸いながら丹田(下腹部)を膨らませます。この時、自然界の発するエネルギー、気を呼吸とともに体内に取り入れ、体内を巡らせた後、丹田に蓄えるようにイメージしながら息を吸います。吐く時は、自然に任せゆっくりと吐きます。 この呼吸法が身について来ると、丹田の部分にどっかりと心が座り、ゆったりと落着いた気持ちが感じられるようになります。身体の中心(重心)である丹田に心が在る時、人は最も気持ちが落ち着き、周りが良く見えるようになります。 ゆったりとした物静かな内気呼吸が出来るようになったならば、内気呼吸によって丹田に蓄えられたエネルギーを一気に相手にぶつけるように腹の底から短く鋭く吐きます。これが外気呼吸法です。 |
腹式呼吸 |
ゆっくりと下腹部を膨らまし、腹式呼吸を練習させると、中にはだんだんと息が苦しくなってくるという者がおりますがこれは、腹式呼吸はお腹で呼吸するものだから、胸を呼吸によって動かしてはいけないと思い、肺に十分な空気を送り込まなかった結果息苦しくなったのです。 腹式呼吸とは、気持ちを丹田に集中させ、下腹部を膨らませる事により横隔膜を下げ、それにより肺に空気を入れる呼吸法であり、当然肺は胸の中で大きくなったり小さくなったりしておりますから、胸もそれにつれて波打ってよいのです。 腹式呼吸と胸式呼吸の違いは、肩が動かないか動くかの違いです。この違いが非常に重要になってきます。当然、腹式呼吸の場合には肩の上下運動はありません。肩が上下に動くという事は、相手に拍子を読まれ、つけ入る隙(スキ)を与える結果となります。 呼吸は、吐く時には全部を吐き切らず3分残し、吸う時には胸一杯吸い込まず、7〜8分に留めるべきです。 |
空手と複式呼吸 |
息を吐き切ると、力が入らず、動きに息苦しさが生じ非常に不利な状態と成ります。また、胸一杯息を吸い込むと体勢が緩み反応が鈍くなります。呼吸は吸っている時、何時でも吐きに転ずる事が出来るように訓練し、心掛ける事が大切です。胸で大きく息を吸っている時に攻撃されると、吐きに転じる事が出来ず一瞬息が止まり、動きも止まりますので充分注意をすべきです。 気の焦りなどが生じると、呼吸が乱れ、知らず知らずのうちに胸で呼吸をするようになってきます。胸で呼吸をするようになるとせっかく丹田に納めた心がだんだんと上に揚がってきます。 心がだんだんと上に揚がってくるにつれて、気持ちの動揺が起きてきます。心が頭にまで昇ってしまいますと地に足が付かず、パニック状態となり周りが真っ白となり、何がなんだか解らなくなってしまいます。組手の試合でドタドタとなってしまっている時は、大体において心が揚がってしまい自分の呼吸を忘れてしまっている状態です。 自分よりも格が上の者を相手に組手をする時も、技も何も出さず、激しい動きをしていないのに呼吸が乱れ、汗をびっしょりかき、非常に疲れを覚える事があると思いますが、このような時には必ずといって良いほど胸で息をしております。 つまり、腹式呼吸は心を落着かせ、平常心を養い、そして無の境地へと導いてくれるのです。 |
構えている時の呼吸 |
構えている時の呼吸は、吸う、吐くに区切りなく静かにゆっくりと流れるように行います。人間、息を吸っている時に攻撃を受けたら、反撃にワンテンポの遅れが生じます。特に、胸一杯吸込んで吐く直前、つまり吸いから吐きに転じる瞬間が身体の反応が最も鈍い時なのです。そこを衝かれない為にも決して相手に自分の呼吸を読まれてはいけません。 相手と対峙し、緊張のあまり息が詰まってきて大きく深呼吸をしたくなった時には、必ず間合いをはずしてから深呼吸をすべきです。間合いをはずさす不用意に深呼吸をすると、相手につけ入るチャンスをみすみす与えてしまう事になるのです。 息が詰まるという事は、緊張のあまり気の停滞が起き、体に凝りが生じ動きが鈍くなります。その様な時には間合いをはずし大きく深呼吸する事により、気の流れを良くし、体の凝りを解消します。 |
技を仕掛ける時の呼吸 |
技を仕掛ける時の呼吸は、鋭く瞬時に爆発するように吐きます。息の吐き方は間合い、技の掛け方等によって異なります。近間では短く鋭く吐き、遠間では少し長めに吐きます。連続技の場合、近間では一呼吸の間にワン、ツー或いはワン、ツー、スリーと技を出します。技の極めの瞬間は息を止めますが、止めた後の呼吸は常に吐きます。近間の場合、極めの後で息を吸う癖をつけると、技と技の間に微妙な間が生じ、そこを衝かれてしまいます。 間合いが遠い場合(攻撃に対し、相手が下がった時など)に出す連続技の場合には、技の極めと極めの間に微妙な間隔があるので、無意識に自然に息を吸っても問題ないと思います。 極めの時の呼吸は、時には息を吐きながら極める場合もありますが、殆どの場合は極めの一瞬は息を止め、止めた後、吸うか吐くかしております。 |
以上が、呼吸に対しての基本的な考え方です。しかし、空手は多種多様な技の複雑な気の駆け引きによって様々な動きが生まれるものであるため、先に記した呼吸法だけではなく、その場その場によって変化します。 連続技の場合など、一本目の技を仕掛ける時は吐き極めの時には息を止め、止めたまま二本目を極める、追い突きの時に、足を引きつける所まで息を吸い、踏み込む足が前に出る時に息を吐く、攻撃する瞬間、一瞬息を止めた後に吐きながら攻撃するとか、その時々に応じて様々な呼吸法がありこの場合は吸って、この場合には吐いてなどと口頭で教わっても解るものではありません。 練習によって指導者の呼吸を肌で感じ、盗む以外にはないと思います。 受けなどにおいて、息を吸いながら受ける場合があります。これなどは、相手の技を受けるのではなく攻撃の時に放つエネルギーとともに気を飲み込むようにして息を吸い、受けます。この様な時の動きは、傍目には優雅に踊っているように見えるものです。 相手の気を呑むという呼吸は口頭ではとうてい説明できるものではありません。常に腹式呼吸を心がけ、様々な状況を想定し呼吸を意識して練習しているうちに自然と自分に合った呼吸法というものが備わってきます。 初心者は、息を吐く事だけに気をつけて練習してください。動く時には必ず吐きながら動く、吸う事は一切考えなくていいです。人間、息を吐きさえすれば必ず無意識のうちに吸うものです。早く息を吐けば早く吸い、ゆっくりと息を吐けばゆっくりと吸います。しかし初心者にとって息を吐くという事は意外と難しい事なのです。早く動こうとか、力強く突こうとか思った瞬間に息を吐かずに止めて力む人が意外と多いのです。息がスムーズに吐けるようになれば、動きも滑らかになり、余分な所に入っている力も抜けてきます。そうなると、自然と自分に合った呼吸法というものが解ってきます。 |
瀬戸塾新聞11号掲載記事(2000,12) |
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