〜「間合」について〜
瀬戸塾師範 瀬戸謙介間合 間合いとは、自分と相手との距離、空間をいいます。この空間をどのように処理するかが勝敗の分かれ道です。物理的には相手と自分との距離は同じ1メートルで有ったとしてもようような駆け引きや心の活用によって「相手にとっては遠く、自分には近い」という状況を作り出すことが出来ます。空手を学ぶ者にとってこの間合いを習得することが出来れば九分九厘相手を制することが出来ます。 間合いとは相互の技量、体格、気力、構え、癖など、様々な要素が絡み合って一つの間が生まれます。自分の間合いを保ちたいと思っても相手も常に動き変化します。相手も変化し自分も変化する、そのような状況の中で常に有利な間合いを取るということはなかなか大変な事ですがその変化している様々な条件や状況を瞬時に判断し、自分に有利な間合いを取れるようにする事が大切です。 自分に有利な間合いを取る為には、まず自分の間合いを知ることです。この間合いなら攻撃できる。この間合いなら相手の攻撃をかわすことが出来る。この間合いからでは攻撃できないといった事を日頃の練習においてしっかりと掴んで体に染み付かせておくことが大切です。自分の間合いが解って初めて相手に対して有利な間合いが取れるようになります。 |
間合いは「気の活用」によって決まる |
間合は「気」によって決まります。ですから自分の間合いを習得するには、激しい練習により強い気を養うことによって初めて成し得るものです。 相手の気を呑むか、相手の気を外すか、相手の気を自分の気で弾き返すか、つまり相手が剛の気で押してきたら柔の気で流し、柔の気で構えたならば剛の気で押し込んでいったり、剛の気に対し剛の気で当たったりと、気の使い方によって様々な間合いが生まれます。たとえば、位が上の者がズカズカと相手の間合いに入っていっても相手は攻撃が出来ないといった状況がよく見受けられます。これは位が上の者にとっては自分の周りすべてが自分の間合いであり、相手にとっては自分の間合いというものがなくなった状態です。このような状態を「気が呑まれた」あるいは「気が封じ込められた」と言います。 |
初心者の間合いの心得 |
基本一本組手あるいは自由一本組手の攻撃のとき、初心者はとかく(注一)近間に成りがちですが、成るだけ遠間より飛び込んで行うように心がけるべきです。そうすることにより踏み込みが強く、足のさばきが早く、腰が深く落ちるようになります。立ち方も強く安定し、動きも早くなり体さばきも俊敏に成ります。遠間での動きが早く、鋭く成れば、近間での動きは楽に動けます。 受側に立った時、初心者は受けに対する不安から間合いをついつい遠くに取りがちですが、なるべく相手の好きな間合いで攻撃させ、それを受けられるように練習で心がけるべきです。近間での受けの練習は、足さばき、体さばきが早くなければ受けることが出来ません。早く動くには、相手の動きを良く見据え、慌てないことです。慌てて動くと、動きがうわずったり相手の動きが見えないばかりか逆に相手に動きを読まれてしまいます。ですからしっかりと相手の動きを見据えることが大切です。相手の動きをしっかりと見据える訓練を積み重ねることで、胆が座り適切な動きが出来るように成ります。 受けの時は近間にといっても限度が有ります。あまりにも近すぎる間合いでは受け手は速く逃げなければ早く受けなければと言った思いが強く成りすぎ体に力みが入り基本が乱れます。初心者でも受けの形がまだ出来ない者とある程度出来上がっている者とでは間合いに対する練習方法は異なります。まだ受けの形の出来上がってない人に対しては安心して受けの動きの出来る間合で受けの形を造ってやり、いつでもその形で動けるようになってから近間での受けの練習に入るべきです。そうしないと変な癖が付きその癖を直すのに後で大変苦労します。 |
相手によっての間合いの違い |
間合いとは相手と自分との距離の事であり様々な要素によって決まります。従って下記に記す各種の間合いについての考え方はあくまでも参考であり絶対にこうであるというものでは有りません。しかし間合いを勉強する者にとって漠然と練習するのではなく、様々な状況を考えながら下記の文を参考にすることがより上達の早道だと思います。 |
構えの違いによる間合い |
1,立ち幅が狭く、あまり腰を落とさず、爪先の方に重心を乗せて構えているる者。 ◆この様な構えをする者は、遠間からの飛び込みが得意であり、構えに独特のリズムを持っています。この様な者に対しては相手のリズムに乗らないように、逆に相手のリズムを崩しながら近間を取るのが有利です。 2,立ち幅が狭く、腰を落として構える者。 ◆この様な構えをする者は受けに自信があり、攻撃は短く鋭い突き、蹴りを得意としている者が多いので遠間を取るのが有利です。 3,立ち幅がやや広く、重心を前にかけて構えている者。 ◆この様な構えをする者は攻撃に主眼をおいた構えであり、連続技による攻撃を得意とし中間あるいは遠間を好みます。この様な者に対しては、近間を取り、出合いなどを狙うのがいいです。 4,立ち幅が広く、重心が真ん中あるいは、やや前にかけて構えている者。 ◆この様な構えをする者は、近間を好み、出合、刻み突き、逆突きなどを得意とする者が多い。この様な者に対しては、比較的遠間を取りフェイントで相手の技を誘い出しながら攻撃するのが良い方法です。 5,立ち幅が広く、比較的重心が後ろにかかって構えている者。 ◆この様な構えをする者は、前にでる出足は比較的遅く、後ろへの逃げ足は素早いです。この様な者は遠間を好むので、なるだけ間合いを詰め近間に取るようにした方が良いです。攻撃は一の技で決めようとは思わず、二の技三の技と追い込んで決めるつもりの方が良いです。 |
体格の違いによる間合い |
1,背の高い者は懐が深く、前足での回し蹴り、刻み突き、逆突きなどを得意としている者が多くなかなか懐に入りにくいです。この様な者に対しては相手の動きに乗じて、あるいは相手を崩しながら懐に飛び込むようにする事が大切です。 2,背の低い者は、動きが早く捕まえにくいです。この様な者に対しては、懐に飛び込まれないように脇を締め、相手の動きに翻弄されることなくどっしりと大きく構えるのがよい構えです。小さい者に対して懐に飛び込まれてはうるさいと思うあまり繰り出す技が小さく成りがちですが繰り出す技が小さいと懐が浅くなり返って飛び込まられる結果と成るので突きは腰に乗せしっかりと突いた方が懐に入られにくいです。 3,体格はよいが俊敏さに欠ける者。この様な者は、待ちの空手を得意とする者が多く踏み込みが浅い。この様な者に対しての間合いは近間でも良いが攻撃の際、後の先を取られないように充分気を付ける事が大切です。 4,腕力、体力に自信がある者。この様な者は、間合いを詰めガムシャラに攻めてくる者が多いから相手に捕まらないように間合いは遠間に取るようにした方が良い。普段の練習において、腕力と体力で相手を威圧し近間での練習に慣れすぎのきらいが有るので間合いを詰めてくる一瞬に(注二)隙(すき)が生じやすい、そこを衝くと良い。 |
気による間合いの取り方 |
気の間合い・・・間合いの距離は同じでも、気の活用によって、相手には不利、自分には有利な状態と成る事をいいます。多くの伝書に書かれている「敵より 遠く、我には近く」というのがこの気の間合いのことです。 1,相手の気を気で押さえつけたとき。 ◆この場合には、相手の動きが鈍く成るので間合いを詰めることが出来、近間で充分です。 2,相手の気を自分の懐に抱き込んだとき。 ◆この状態を「相手の気を呑む」といいます。呑まれた相手は気の抵抗を感じなくなります。すると気に迷いが生じ動きにも勢いがなくなり技の切れもなくなります。そのような者に対しては近間でも良いが、遠間を取り相手の動きにあわせていった方が危険性が少ないです。 3,相手の気のリズムに自分の気のリズムを合わせる。 ◆相手の気のリズムに合わせると言うことは、相手の心の中に入っていくことです。相手の心の中に入って行ければ相手の気の動きが読め繰り出す技が読めるようになります。左手で突こうと思えば自然と左手の方に気が集中するのが解り、右足で蹴ろうと思えば右足に気が集中していくのが自然と解ります。この様な場合には出合を取るかさばいて決めるかによって間合いは自由に選択することが出来ます。 4,相手の気のリズムを自分の気のリズムで乱したとき。 ◆これは相手の発する気のリズムに対し、全く別の気のリズムを発し相手の気のリズムを狂わし、「気の迷い」を起こさせ疑心暗鬼にさせることです。相手に「気の迷い」を起こさすには遠間よりジワリ、ジワリと攻めていくのが良い方法です。 5,相手の気を外す ◆これには二つのパターンがあります。一つは、相手が強い気で押してきたときに、(注三)ふと気をかわす方法。 この場合には少し遠間に取った方が良いです。もう一つは、強い気で押してきたときに、こちらも強い気で受け止めお互いの気が充実し打ち込もうと思った瞬間に(注四)気を別の方向にそらし相手がそれにつられた一瞬の「気のたるみ」に乗じ飛び込んで決める方法。このときの間合いは近間で、(注五)絶対的間合いです。 ▼注一 「近間」・・・逆突き、刻み突きなどで決めることの出来る間合い。これより遠い間合いを遠間と言う。 ▼注二 「隙(すき)」・・・@気の隙:相手の心の動きに生じる瞬間的な間隙。気のたるみを隙と言う。A動きによる隙:動く瞬間、あるいは一つの動きから次の動きに移る瞬間に生じる間隙を隙という。本文中の隙は、Aを指す。 ▼注三 「ふと気をかわす」・・・(形)雲手、第三十挙動目の牽制の技の様にゆっくりと、ふわあっと動き、その動きに相手がつられた瞬間に打ち込む。 ▼注四 「気を別の方向にそらし」・・・(形)二十四歩、第十八挙動目の牽制の技の様に相手が攻撃をしようと思った気の動きの一瞬を捉え、素早く虚の技を繰り出し狼狽えた瞬間に打ち込む。 ▼注五 「絶対的間合い」・・・絶対的間合いとは、お互いが詰め寄り何か変化、動きがあれば、一瞬のうちに飛び込んでいくぎりぎりの間合いのことです。これは張りつめた糸が切れる一瞬の様な緊張感の有る間合いの事です。この絶対的間合いにおいて勝負しているときには、動きがなくとも見ている者は、固唾を呑み息をする事さえ忘れ、手に汗を握り、緊張感が会場全体を包みます。この間合いからどちらか一方が間を外したとき、見ていた者がふと我に返り、息を大きく吸い込みそして吐く息の音が会場内に響き渡る、この一瞬の安堵感というものは緊張感が強ければ強いほど心地よいものです。 以上 |
第3回勉強会 (02/9/22) |
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