第二十二回 論語勉強会
瀬戸塾師範 瀬戸謙介
(原文) 子曰、恭而無礼則労、慎而無礼則葸、 勇而無礼則乱、直而無礼則絞、 |
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(書き下し文) 子曰わく、 恭(きょう)にして礼なくば則ち労(ろう)す。 慎(しん)にして礼なくば則ち葸(し)す。 勇(ゆう)にして礼なくば則ち乱(みだ)る。 直(ちょく)にして礼なくば則ち絞(こう)す。 泰伯第八(二) |
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*恭・・・人に敬意を払うこと *労す・・苦しみ疲れる事、骨が折れること *慎・・つつしむ、注意深く疎略にしない事 *葸す・・恐れる 臆病 *絞す・・厳しくて少しも容赦しないこと (訳) 恭(きょう)にして礼(れい)なくば則(すなわ)ち労(ろう)す。 ばか丁寧でいくら恭(うやうや)しくしても、その行為が礼儀にかなった丁寧さでなければ、苦労する割には自分の真意を相手に伝えることが出来ない。 慎(しん)にして礼(れい)なくば則(すなわ)ち葸(し)す。 慎み深く、慎重であってもその行為が礼儀に適っていなければ、ただ単に臆病者だと思われる。 勇(ゆう)にして礼(れい)なくば則(すなわ)ち乱(みだ)る。 勇敢な行動であってもその行為が礼儀に適っていなければ、ただ単なる乱暴者でしかありません。 直(ちょく)にして礼なくば則(すなわ)ち絞(こう)す。 正直で真面目だといってもその行為が礼儀に適っていなければ、他人の小さな過失をも見逃すことの出来ない、ただ単に人を締めあげる温かみのない冷酷な人間となってしまいます。 |
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(解説) ばか丁寧で背筋がむず痒くなるような褒め言葉や、大げさな恐縮した言葉を何時も口にする者(巧言令色)。引っ込み思案で自分からは積極的に行動しないくせに、人が自分の方を向いてくれなかったり、構ってくれないといじけたり、ひがんだりする者。自分の劣等感を隠すために粗暴な行為をし、さも勇気があるように見せ空威張りする者。自分の知識をひけらかし、たいして重要でもない他人のちょっとした過失を何時までも言い続ける者。このような行動を取る者は「自分の分を弁(わきまえ)ず、礼を知らないからだ」と孔子は言っているのです。 荻生徂徠(江戸中期の儒学者)は、 「恭、慎、勇、直は人の徳性である。礼は徳性を養う大本である。もし成り行きに任せ、礼をもってこれを養わなければ、必ず労、葸、乱、絞の悪い結果を生じる」と言っています。 わずか一歩踏み違えただけで、美徳が悪徳へと変わってしまう。こんな事は世間にはいくらでもあります。 たとえば、個性は一歩間違えば悪癖、わがままとなり、優しさも弱さにつながっていく場合があります。この微妙な限界を踏み外さないようにするのが礼儀であると孔子は言っているのです。 食事をする時に口を開けてクチャクチャと噛む音を立てて食事をする人。卒業式や入学式など厳粛な儀式の時に平気で話しをしたり、携帯でメールを送ったりしている人。こういった人達も不作法な奴と軽蔑されます。人は社会で暮らしていく限り正しい「礼儀作法」を身に付けることは大切なことです。 |
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瀬戸塾新聞第29号掲載記事 | |