第二回 論語勉強会 
「巧言令色鮮なし仁」

瀬戸塾師範 瀬戸謙介

【原文】
子日、巧言令色、鮮矣仁、

【書き下し文】

()()わく、巧言(こうげん)令色(れいしょく)(すく)なし(じん)   
巧言・・・言葉を飾って巧みに言うこと、飾りすぎた言葉
     口先の上手いこと
、心にもないことを言葉にして言う、お世辞の上手い人
    
 耳触りのいい言葉しか言わない人
     要するに、言葉の中に真心がこもっていないひと

令色・・・他人の気に入るように顔色をよく飾ること、顔を和らげ人をそらさぬ対応
     
他人に気に入ってもらおうとする、愛想笑い

鮮 ・・・少と同義語です

仁 ・・・真心、愛情

【解説】
 口が達者でお世辞が上手く、媚びるような笑顔で物腰も柔らかく、人の気をそらせないような対応をする人に、真心を備えている人は少ない。つまり、「口先だけの人間になってはいけない」ということです。
 皆さんは「詐欺師」と言う言葉を知っていますか。最近有名なのは「オレオレ詐欺」ですが、これはもちろん言葉巧みに相手の心に動揺を起こさせ、その動揺につけ込んで金銭を振り込ませる。といった手口ですが、これは半分脅かしであって、言葉巧みに信頼させて騙すのとは違うので「巧言令色」とはちょっと違います。
 以前「豊田商事事件」というのがありました。営業マンが一人暮らしのお年寄りの家に行って話し相手になって親切にしてあげ、相手をすっかり信用させて大切なお金を騙し取る。という事件です。その手口は、寂しい一人暮らしのお年寄りの家に行って話し相手になって信用させた後で「おばあちゃん、私を息子と思って何でも言いつけてください。今日は夕食の材料を買ってきたので作って一緒に食べましょう。」などいかにも親切で、親身になっている素振りを見せ、情に訴え、相手に抜き差しならない感情にさせそれから騙したのです。多くのお年寄りから、老後の為にと貯めたお金を騙し取り集めた金は総額2000億円以上にまで膨れ上がった、という事件です。 これは「巧言(こうげん)令色(れいしょく)(すくな)(じん)」の典型です。

 皆さんは、学校で「自分の思ったこと、感じたことを自分の言葉で素直に表現出来ることがとても良いことだ」と教わっていると思います。自分が正しいと思ったことをはっきりと相手に告げる、そのこと自体はとても大切なことです。しかし一歩間違えばそういう教育は自己弁護の上手い、つまり口先だけの心のない人間を育て上げる結果を招きかねません。

 つまり、自分の間違った行動をも正当化する為に言い訳が上手い人間になってしまう恐れがあるのです。

 今年の四月にアメリカに空手の指導に行った時、昇段試験に立ち会いました。受験者は基本、形、組手とすべての受験科目を終えた後に、居並ぶ試験官から様々な質問(空手に対する期待、夢、後輩を指導したいか、等多岐に渡っての質問)を受けそれに答えなければいけません。(日本ではこの様な試験はありません)ある試験官がした「貴方は黒帯になれたあかつきには空手に対してどのような姿勢で臨みますか。」という質問に対して、ある受験者が長々と答えていました。早口の英語で私には言っている内容がよく理解出来ませんでしたが、何となく的はずれな答えをしている様な感じがしました。試験が終わった後、試験官に「彼はずいぶん喋っていたが何と答えていたのか、私にはよく理解出来なかったが。」と聞くと「内容はなんにもない。空き缶は放り投げるとよく響くだろう、しかし缶に中身が入っていると鈍い音しかしないが存在感がある。それと同じで中身のない奴程うるさくよく喋るのさ。」と言った答えが帰ってきました。

 皆さんも心掛けて欲しいと思います。中身のない言葉は誠実さに欠けます。まず多く喋るよりも自分の中身を鍛えあげることが大切です。中身がしっかりと詰まっている人物は多くを語らずとも一言がとても重い言葉となります。
瀬戸塾新聞22号掲載記事(2006,2)

 

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