~高校野球特待生制度に思う~
瀬戸塾師範 瀬戸謙介 今、高校野球界に大きな激震が走っている。日本高等学校野球連盟が野球を対象としての特待制度は学生野球憲章に違反していると言い出したからだ。こうした高野連の態度に対して、マスコミを始めとし世間全般は批判的である。 |
理由 ①野球以外のスポーツでも広く特待制度が認められている。また、スポーツに限らず勉学においても、音楽界でも才能のある者に対して特待制度は設けられている。 ②私立強豪校の多くが特待制度を設けていることはいわば公然の秘密であり何を今更といった感がある。 ③私学の場合は私企業である。少子化が進む中、生徒を獲得し、経営を安定させたいと考えるのは当然である。 ④貧しい少年を切り捨てて良いのか。野球が上手いのも才能である。貧しさ故に高校や大学へ進学して野球が出来ない少年を、特待制度で支援するのが何処が悪いのか。才能のある少年の望む道を閉ざしていいとは思はない。 ⑤高野連が目の敵にする野球留学も、東北、北陸、北海道などの寒冷地での野球のレベルアップに寄与。駒大苫小牧から楽天に入った田中将大投手の逸材も出身の兵庫県では埋もれていたかもしれない。その上で、各県の地元選手の奮起にもつながっている。 以上が高野連の裁定に対しての主な反対意見である。 |
私はどの理由をとっても的を射ていないと思う。 |
①他の分野で認められているのになぜ野球だけがダメなのか?それは目に余る程ひどいからである。授業料、寮費、食費全て免除、この金額は年間にすると百万円を超えると言われている。また、四月二十四日に共同通信社が発表した調査内容によると、中には部員46人全員に月額2万円の小遣いを奨学金として出している学校も有ったという。ここまでいくと、いくら何でもやり過ぎとしか言いようがなく、教育の現場で行うべき事では決してない。 ②に対しても上記の如く許容範囲を超えており堪忍袋の緒が切れたのである。 ③私学は国から多額の助成金をもらって経営しており、一般の企業とは根本的に違うのである。なぜ国から助成金が出るのか。国は決して野球の上手い人間を育てて欲しくて助成金を出しているのではない。日本の国民として立派な人間を教育する為に助成しているのである。学校現場自体に教育者としての自覚が無さ過ぎる。 ④私立の学校で野球留学するから費用がかかるのであって、公立高校に行き奨学金制度を活用すれば今の日本で勉強出来ないはずはない。甘ったれるなと言いたい。 ⑤高校野球はその地区の代表として戦っているはずなのにその県出身の者が一人もおらず、無理な補強のため遠くに居住地の有る選手を奨学金で呼び寄せる。この行為は明らかに子供達を自校の宣伝の為に使っているのであり、教育上好ましい訳がない。 |
高校野球に限らずスポーツ界全体を見回しても行き過ぎの感がある。野球が上手けりゃそれで良いじゃないか、卓球が上手けりゃそれで良いじゃないかといった風潮が世間一般にある。卓球の愛ちゃんを見ていて、何時学校で勉強しているのだろうかと疑いたくなるが、それでも一流大学に入学出来る。大学のレベルが世界的に見て落ちるはずである。今回の高野連の調査によると7,971人もの学生が特待制度を受けていたという。こんなにも多くの「脳みそまでもがカチコチの筋肉になってしまっている人間」を、大金を使って育て、世に排出して善いものかと考えさせられる。 学生には学生としての節度があるはずだ。高校生の時からサインを書いたり、マネージャーに汚れたユニーホームを洗濯させたり、ちやほや甘やかす事に何の疑問を持たない体質こそが問題なのではと思う。 オリンピックを始め世間ではスポーツをあまりにも神聖化しているきらいがある。人間は動物である以上身体を動かす事はとても大切である。しかしそれ以上に大切な事は人間が人間である事だ。人として生きる道、これは身体だけを動かしていたのでは絶対に学ぶ事は出来ない。学問、良書こそが人の生きる道を教えてくれるのである。学校教育とは、何をもって教育と言うのかを考え直さなければいけないのではと思う。 |