推薦図書

 
逝きし世の面影
        渡辺 京二 著
      平凡社ライブラリー出版








 

 ある民族のごく当然として毎日を過ごしている一般庶民の日常の様々な行為に関して、文献等の記録はあまり残っていません。それは、その民族にとってはごくごく当たり前のことなので、わざわざ記録するに値しないと思うからです。しかし、異国の人にとってはそのごく当たり前の行為が、当たり前でなく、非日常的、特異的に写ることがしばしばあります。

 幕末から明治にかけて、数多くの異国人が日本各地を訪れました。彼等の目に写った日本人は彼等の常識では考えることの出来ない驚嘆に値する民族でした。

 「人を疑うことを知らず、何時も明るく笑い声が絶えない。礼儀正しく、お互いに助け合い、そして幸福で気さくな、不満のない国民。健康と満足は男女と子どもの顔に書いてある。」など、日本の車夫などごく一般庶民の生活ぶりを、来日外国人が見てどう感じたか実に多くの証言をもとにこの本は書かれています。

 子供の様子も「私は日本が子供の天国である事をくりかえさざるを得ない。世界中で日本ほど子供が親切に取り扱われそして子供のために深い注意が払われる国はない。ニコニコしている所から判断すると子供は朝から晩まで幸福であるらしい。」「私はいままでのところ、母親が赤ん坊に対して癇癪を起こしているところを一度も見たことがない。」この証言は八年間日本に住んだモースの言葉です。

 中江藤樹のお話に出てくる「正直な馬方」のような話しは日本全国至る所で見受けられます。

 私はこの本を読んで、現代の日本人(私も含め)とまるで同じ民族とは思えないほどの衝撃を受けました。

 アインシュタインが日本民族のことを「日本は個人主義はごく僅かで、法的にも、個人主義をもともとそれほど保護する立場をとっておりません。しかし世代にわたる家族の絆は固く、互いの助け合いによって人間本来の善良な姿と優しい心が保たれている。・・・この尊い日本の精神が地球上に残されていたことを神に感謝する。」といって賛美していますが、この本を読むととても納得させられます。私たちの身体の中にはこのような素晴らしい遺伝子が受け継がれているはずです。皆さんはこの本を読んで是非、身体の奥深く眠っている日本人が持っていた素晴らしい心を蘇らせて欲しく思います。
                                  瀬戸謙介