推薦図書
海の武士道
恵 隆之介著
出版:産経新聞社
1,600円
第二次世界大戦中、戦場で漂流者を救助しようとして逆に攻撃を受け自鑑もろとも犠牲になった事例は少なくありません。また、負傷兵1,129名をのせた日本の陸軍病院船「ぶえのすあいれす丸」は米軍B24爆撃機によって撃沈され、患者、看護婦、乗員は16隻の救命ボートで漂流しているところをB24に発見され、容赦なく機銃掃射をうけ158名が殺害された事件もありました。このように、米軍に限らずロシア軍などほとんどの国の軍隊は敵国民を発見すると、それが軍人であれ非戦闘員であれ、容赦なく銃撃を加えることが日常的に行われていました。
この点、日本海軍は「武士道」に基づき、敵の漂流者や病院船はいかなる場合でも攻撃をしませんでした。日本海軍航空隊では、海軍パイロトになったときに@空中戦中、落下傘で降下中の敵兵を撃ってはならない。A沈没した船から脱出して漂流中の敵兵は撃ってはならない。B戦闘力のない旅客機や客船を攻撃してはならない。この三点を真っ先に教わりました。
「海の武士道」は昭和17年2月17日インドネシア・ジャワ島東方海域で日本艦隊と英米蘭豪の連合艦隊が戦火を交え、敵艦隊6隻を撃沈、我が方わずか駆逐艦1隻中破にとどまり完勝した、世にいうスラバヤ沖海戦の時、漂流中の英兵422人を、危険を顧みず救助に当たった駆逐艦「雷」の艦長工藤俊作中佐の物語です。
スラバヤ沖海戦の支援作戦に当たっていた駆逐艦「雷」が、3月2日海戦があった海域を航行中に撃沈された英国鑑「エンカウンター」の乗組員が漂流しているのを発見。工藤艦長はなんの迷いもなく「救助」の伝令を発し、ただちに救助活動に入りました。周りの海には敵潜水艦が航行しており、何時敵潜水艦から魚雷攻撃を受けるか分からない緊迫した海域でのことです。現に、3月1日午後10時30分頃にこの海域で輸送船「加茂川丸」が敵潜水艦の攻撃を受けて沈没している最中の決断でした。縄ばしごや竹竿で次々と英兵を救助し、力つきて目の前で沈んでいく英兵には、命令違反を犯してまで海に飛び込んで救助する隊員もいました。乗員の二倍にものぼる422人の敵兵に対して、乗員には一日洗面器一杯しか与えられない真水を使って汚物と重油にまみれた身体を洗ってやり、ビスケット、乾パンや私物の下着などもあたえ手厚く看護しました。
救助した士官を前甲板に集め、そこで工藤艦長は挙手の敬礼をし、流暢な英語で「あなた方は国のために勇敢に戦った。私は英国海軍を尊敬している。本日から諸君は我が帝国海軍のゲストである。」と語ったのです。そこに居合わせたサムエル・フォール中尉は夢を見ているのではないかと自分の腕をつねってみたと記しています。フォール卿は日本の駆逐艦が近づいてきたときには銃撃を受けるのではないかと言った恐怖を覚えたと言います。なぜなら、当時米軍では日本海軍と対照的に、漂流中の日本人を発見すると、軍人、非戦闘員にかかわらず容赦なく銃撃を加えていたからです。
工藤艦長はこの出来事について語ることなく戦後死去しましたが、フォール氏が米海軍機関誌に体験談を投稿するなどして各国に日本の武士道を紹介しました。「海の武士道」はその記事に感動した恵隆之介氏が取材して書いた本です。
私はこの本を読んだ時に、今から662年前(1347年)楠木正行(まさつら)が敵一万の軍勢に対して二千の手勢を率い戦い打ち破ったときの話しを思い浮かべました。京都に向かって我先にと敗走する敵兵が渡辺橋に差しかかり大混乱となり、多くの者が次から次ぎへと殺到する兵に押され川に落ちて溺れてしまいました。それを見た正行は追撃するのを止め「戦の勝敗は付いた。溺れる兵士を助けよ」と命じたのです。「戦い終われば敵も味方もない」といった仁の精神が脈々と我々日本人心の中に受け継がれてきているのだと思うと目頭が熱くなる思いがしました。以上
瀬戸 謙介
関連書籍紹介
海の武士道 DVD BOOK
恵隆之介 著
育鵬社 発行
2,000円
この救助劇は、ほんの数年前まで、日本国内で知られる事は
有りませんでした。奇しくもサミュエルフォール卿の来日と、恵氏の出版を機に
戦後60年以上経って初めて日本に紹介されたのです。
平成19年4月にフジテレビ系列アンビリーバボーで「戦場のラストサムライ」
として放映され、番組終了直後から視聴者からの感動と称賛を伝える電話が
殺到し、関係者を驚嘆させました。
また、平成21年横浜の公立小中学校でこの救助劇を道徳の教材として使用し、
授業が行われたそうです。
生徒の感想文には、
「こんな大人になりたい」(小6)
「武士道の血を受け継ぐ日本人として、一日一日を真剣に生きていきたい」(中2)
などの日本人としての誇りや使命感が述べられていました。(本書あとがきより抜粋)
これからの日本を背負っていく若者が工藤艦長のような先人がいた事を認識し、日本人と
しての自信と誇りを感じて頂きたいと、各界の方々やフジテレビの協力のもと、アンビリーバボー
で紹介された内容を再編集した20分のDVDと、簡潔にまとめられた内容で新たに発行されました。