推薦図書

 「菜根譚」
(さいこんたん)

 (洪自誠 著、吉田豊 訳 神子侃 訳)
 徳間書店

「心中が清らかであれば、大いに昔の書物を読むがいい。もしそうで無い者が書物を読むと昔の人のすぐれた行動を自分が利欲をとげるための参考としたり、りっぱな言葉を自分の欠陥をとりつくろう口実にしたりするものだ。これは侵略者に武器を与え、盗賊に食料を与えるのと変わりはない」
 「名誉心の強い者は、道義を看板にしながら悪事を働くからその害は隠れて大きくなる」


 この文章は、中国の明の時代に書かれた本「菜根譚」に書かれている一節です。この文に接した時私は今の政治家の言動を思い出し妙に納得をしました。
文明は発達しても、人間の持っている性と言うものは全然変わっておらず、少しも人類は上等に成っていないと痛感しました。
 「菜根譚」は体系的に書かれたものではなく著者が心のおも向くままに書かれた人生哲学書です。
 
「利益とみれば真っ先に飛びつき、自分を鍛えることにはまるで無関心、こんな人間は人に遅れを取るばかりだ。報酬は分に応じて控えめに受け取るようにし、修養と奉仕に出来る限りの力をつくそう」
 「おごりや高ぶりはすべてから元気にすぎない。偽りの勇気を投げ捨てた後に、はじめてその人の真価が発揮される。欲望や打算はすべて迷いの心からくる。迷いがさめた後に、はじめてその人の真心が現れる」
 「人格は主人、才能は召使い。才能ばかり有って人格が備わっていなければ、主人のいないまに召使いが勝手気ままに振る舞うのと同じ事となる。その人の心は百鬼夜行、果もなく乱れるのも無理はあるまい」


 など、人心の乱れに対して警告し、迷いを払拭するのに充分な答えを持っている本です。本著は人間の本性を鋭くつき、人としての生きる心構えをとうとうと説いているが、その態度は媚びるところがなく、悠々たるゆとりさえ感じさせます。
 菜根譚の思想は、儒教、仏教、道教が一体となったものです。 有る意味に於いては悟りきった本であり、なかなかまねの出来ることではないが自分の人生の心構えとして参考にすべき点が多々あると思います。
 本著は356の短文から成り立っており、読んでいてその通りと納得したり反省させられたりと、読む人ひとりひとりの人生経験、その時の心境などによって様々な受け取りかたが出来ると思います。

他に「菜根譚」岩波文庫(今井宇三郎,訳注)、「新釈菜根譚」PHP文庫(守屋洋〔訳〕著)等があります。

                                瀬戸謙介