推薦図書
「代表的日本人」
内村鑑三著
岩波文庫 出版
新渡戸稲造「武士道」、岡倉天心「茶の本」、内村鑑三「代表的日本人」この三冊は日本人が英語で日本の文化、思想を西欧社会に紹介した代表的な著作です。内村鑑三と新渡戸稲造は札幌農学校の同級生であり、共にクラーク博士の思想に感銘しキリスト教の洗礼を受けました。
当時、欧米人達は異教徒や有色人種に対して大変な偏見を持っていました。そういった考えに対して、欧米の文化に勝るとも劣らない日本の思想、文化を日本の歴史上の人物、五名を代表として選び彼らを紹介することにより日本の誇りうる伝統精神を知ってもらおうと思い書いたのがこの本です。この本は新渡戸稲造の『武士道』が出版される5年前に海外で出版されました。
この本の特徴はただ単に内村が日本を代表する五名を選出し彼等の生きざまを伝記としてえがいたのではなく、初めに日本の文化の在り方を紹介し、その具体例として彼等を取り上げていることです。例えば、「私どもは、学校を知的修練の売り場とは決して考えなかった。修練を積めば生活費が稼げるようになるとの目的で、学校に行かされたのではなく、真の人間になるためだった。私どもは、それを真の人、君子と称した。更に私どもは、同時に多くの異なる科目を教えられることはなかった。昔の教師は、わずかな年月に全知識をつめこんではならないと考えていたのである。」「歴史、詩、礼儀作法もある程度教えたが、おもに教えられたのは道徳、それも実践道徳であった。学校には、他の国でよくみられるような教派上の争いはなかった。これも私どもの昔の教育制度がもっていた、別のよい特徴である。」と明治時代以前の学校教育に関しての良き特徴を書いた後、中江藤樹を引き合いに出し徳を持っての教育の大切さを説いたのです。
「代表的日本人」は
1、国を託するに値する人物とは・・西郷隆盛
2、上に立つ者としての心得・・上杉鷹山
3、人を動かすには・・二宮尊徳
4、教育とは何をもって・・中江藤樹
5、宗教の持つ意義とは・・日蓮上人
の五名が選ばれています。
内村が代表的日本人として取りあれた五名はいずれも自己の信念に従い節を全うした人物です。そして彼等は常に「誠の道を」追求した人々です。
この本の最大のテーマは自分に厳しく、私欲のない人間の生き方とは、そしてそのような人物こそが社会にとって必要不可欠な人物であるかを説いています。そして「人間としての生き方」とはこうあるべきだということを述べ、日本人の本質はここにあるのだと言うことを主張しています。私はここに書かれている五名が決して特別な人間であったとは思いません。昔の人の多くは彼等と同じ様な徳性を持った人が世の中のほとんどをしめていたのだと思います。それは、安土桃山時代から江戸時代にかけて来た多くの外国人が彼等の本国に送った文章にも日本人の道徳的行動の素晴らしさを書き送っていると言った事実からも察しがつきます。損得、利益ばかりを追求している現代の我々、真の日本人は何処に行ったのでしょうか。寂しい限りです。